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前回のエントリーでは
司法解剖における遺族の期待と現実の齟齬について書いたが、「関係者」さんが触れられていた、
死体検案書の死因の話を書き忘れていた。確かに、
死体検案書がなければ火葬はできないし、役所への死亡届も出せない。だが、前回書いたように、
司法解剖が終わった時点で判明するのはあくまで肉眼所見だ。だから、司法解剖した医師が書く死体検案書の死因欄に書かれることはあくまで
肉眼所見からの暫定的な死因なのだ。つまり、
死体検案書に何らかの死因が書いてあって、火葬してしまってから、司法解剖の詳細な検討結果(特に、組織の顕微鏡検査の結果)が出て、医学的な判断としての最終的な死因が違ってくることも十分あり得る。多くの人は、
死亡診断書や死体検案書に書かれた死因が真の死因だと思い込んでいる。だから、この事件のような場合、「
言ってることが違うじゃないか」となる。普段医療と関わりのない世界にいる
一般の人の感覚からはこうした違いが当たり前だということが理解しがたい、あるいは受け入れがたいということは私もよくわかる。だからこそ、このような機会を捉えて、
説明し、理解を得るための努力が必要だと思っている。
死亡診断書・死体検案書のような
証明書なり、何なりの書類というのは、何のための証明ないし書類なのかということを考えるとこうしたことがよく見えてくる。
よく考えたらわかることだが、
死亡診断書や死体検案書は、役所にこの人が亡くなったから、戸籍や住民票から削除(亡くなった人として記録する)してもらうために、医師が確実に死んでいるということを証明することが目的の書類だ。その証拠に、現在の死亡診断書・死体検案書はA3の紙で、
右半分が死亡診断書・死体検案書になっていて、左半分は死亡届になっている。さらに付け加えると、生きた人間を火葬してはいけないから、
火葬場で火葬するには、この人が確実に亡くなった人だという証明を元になされる許可がいる。だから、
死亡診断書・死体検案書がないと火葬できないってことになる。
つまり、
死亡診断書・死体検案書の作成はその目的上、すぐになされなくてはならない。なぜなら、戸籍や住民票上生きた人間ってことになったままだと、税金を払う義務が生じたり、逆に亡くなった人に年金を払うということが発生してしまうし、数日のうちに火葬しなければ死体は腐ってしまうからだ。
じゃあ、なぜ、死亡診断書・死体検案書に死因を書く欄があるのだろうか。
本来の目的からすれば、死亡したことが確実であることを証明できればいいのであって、死因は後回しでいいはずだ。だが、ことはそう単純な話ではない。これには、
日本の死因統計という制度が関わっている。死因統計という制度は、
日本人の死因は何が多いのかを調べる制度だ。誰でも一度ぐらいは
日本人の三大死因というのを聞いたことがあるだろう。
現在の日本人の死因の第1位は悪性新生物(がん)、第2位は心疾患、第3位は脳血管疾患になっている。(参考)厚生労働省:平成16年人口動態統計月報年計(概数)の概況
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai04/toukei6.html死因統計は、どのような病気が多いか、死亡原因に何が多いかを調べることで、どの病気の研究を優先すべきかとかいったことを考えるために使われる。しかし、
亡くなった人全員の死因を後から調べるのは手間がかかり、非常に難しい。だから、死亡診断書・死体検案書を書いてもらう際に医師に
ついでに死因まで書いてもらうことにしたのだ。こうすれば、
死亡届が出される役所に亡くなった方全員分の死因が集まるから、統計に漏れがなくなる。
このように、
死亡診断書・死体検案書の死因欄に書かれた死因というのは本質的に急いで判断して書くものなので、医学的に細かい部分まで正確であるとは限らないのだ。